退職ビザ預託金の行方2015年7月30日


退職ビザ(SRRV、Special Resident Retirees Visa)は、下記の特徴を備えた世界でも類のない万能ビザといえる。条件に応じて、1万ドル、2万ドルあるいは5万ドルの預託金が必要だが、この預託金の取り扱い関する明快な指針がないので、申請者にとって頭痛の種だ。そこで今回、この預託金をキーワードに退職ビザにまつわるルールや実務をまとめてみた。

(1)滞在期間に制限が無く、出入りも自由。フィリピンに滞在する義務もない。ただし、年会費360ドルを支払ってIDカードを更新する必要がある(代理可能)

(2)出入国に当たって、再入国許可、出国許可、などの手続きは不要。さらにACR(外国人登録票)も不要(PRA発効のIDカードがその代わりをなす)。

(3)35歳以上であれば、2万ドルの預託金でほとんど無条件で取得できる。配偶者と子供(21歳未満未婚)の同伴が可能(合計2名まで、3人以上は追加の預託金が必要)。就労もできる(ただしAEP-就労許可証、取得のこと)

(4)預託金は一定の条件のもとに使用することができる。また、ビザをキャンセルすることにより、全額が返却される(利子も若干付く)。

1.退職ビザ取得のために必要な預託金の条件

35歳以上、50歳未満の申請者の預託金;クラシックプログラムでは5万ドル、スマイルプログラムでは2万ドルの預託金が必要。ただし、介護、療養を必要とする場合(ヒューマンタッチプログラム)、1万ドルとなるが、月間、1500ドル以上の年金を受け取っている必要がある。
クラシックでは、預託金をコンド購入あるいは住宅の長期リースとして利用できるが、スマイルでは投資への転用はできない。

50歳以上の申請者の預託金;クラシック、スマイルプログラムとも2万ドル、ただし、年金を800ドル(単身者)あるいは1000ドル(夫婦)以上もらっている場合は、1万ドルとなる(クラシックプログラムの一部)。
投資の条件は(1)と同様。

年会費;預託金の他に年会費が必要で、同伴者2名までを含んで360ドル、ただし、3人目の同伴者は一名に付き100ドル追加される。条件が整っていれば、3年分の年会費を先払いして3年有効のIDカードを発行してもらうこともできる。そうすれば、3年間、何もしないでも、ビザは維持される。

これらの預託金は事前にフィリピンのPRA認定銀行に送金され、その証明書を申請書の一部としてPRAに提出しなければならない。その際、重要なことは、これが、海外から送金されなければならないということだ(日本あるいは香港、シンガポールなど)。フィリピンにある預貯金、あるいは現金を持ち込んで、預金したのでは認められない。ただし、以前、フィリピンに送金した外貨で定期預金を作った場合、送金先銀行から、それが海外から送金されたという証明書が出ればOKとなる。

2.DBP(Development Bank of the Philippines)への預託金

Bank of Commerceの認定辞退などにより、一般の認定銀行に預託金を預けることは不便になっており(事前の口座開設など)、最近は、DBPのPRA口座に預託金を預けることが一般となっている。DBPの場合は、申請者の個人口座を開設する必要がない上に、政府系銀行であるため倒産の可能性が無く、安心だ。ちなみにフィリピンのペイオフは50万ペソで、2万ドルを一般銀行に預けた場合、その半分近くが回収できないというリスクがある。

DBPの場合、預託金は、DBPのPRA口座に一括して預けられている。したがって、申請者の個人口座というものは存在せず、DBPからはPRAあてに所定の金額を預かっているという証明書が発行され、それが、ビザ発行の条件となる。後日、PRAからも申請者に預かり金の証明書が発行されるのだが、ビザ発行の段階では、DBPからの証明書のみが申請者に渡されるので、それが唯一の預託金の証明となる。

預託金の振込み;DBP のPRA口座に預け入れられた預託金は、もちろんビザの申請者の名前で振り込まれなければならないが、何らかの事情で、他人に振込みを依頼する場合は、SRRV Deposit for xxxxxxxx(申請者の名前)と連絡事項の欄に明記すれば大丈夫だ。ちなみにDBPによる受け取り、証明書の発行など、PRAが申請者の預託金を認識するまで、送金日から約2週間の時間がかかるので、十分な余裕を持って送金することが肝心だ。
ゆうちょ銀行の場合、SRRV Deposit for xxxxxxxx(申請者の名前)連絡事項が書けないので、他人が振り込む場合、申請者を認識できずトラブルとなる可能性がある。したがって、預託金の振込みはゆうちょ銀行の利用は避けてほしい。

ORアカウント(共同名義);一般の認定銀行に預けた場合、PRAの承認を経て夫婦共有名義(“または”という意味の英語“OR”を使って“OR(オア)アカウン ト”と称する)とすることができる。当初、DBPの場合は、本人名義の口座というものは存在しないので、ORアカウン トは不可とされたが、PRAの見解が二転三転し、結論としてBank of Commerceから預託金を移動するにあたってORアカウントとすることができた。ただし、ビザ取得後すでに個人名で預け入れたものを、あらためてOR アカウントにすることは現状ではできず、不公平な取り扱いになっている。ちなみに一般認定銀行でORアカウントとできるのは下記の場合だ。

1.日本人同士の夫婦で両方が退職ビザを保有している(申請者本人と同伴者として)
2.配偶者がフィリピン人である

OR アカウントの意味は、どちらか一方が全額を下ろす、あるいは保有できるということで、夫婦など、預金を共有する場合は便利で、後述するように相続の場合、大変有利になる。

利子の支払い;DBPに預けられた預託金には若干ながら利子がつく。PRAに出向いて所定の様式に記入して利子の支払いを要求すれば、指定した口座に振り込んでもらえる。ただし、振り込み口座は本人名義でなければならない。ちなみに利子の支払いは、年一回だ。

ゆうちょ銀行のトラブル;ある申請者が、ゆうちょ銀行から預託金をDBP に振り込んだところ、ゆうちょ銀行は経由銀行としてフィリピンのローカル銀行(政府系)であるLAND BANKを選択した。LAND BANKからはDBP に振込み人の情報だけを伝え、どこの銀行から振り込まれたのかをDBPに伝えなかった(伝えること拒否した)。さらにゆうちょ銀行もどこを経由して送金したかを明らかにしなかった。したがって、PRAとしては、それが海外から振り込まれたことを認識することができず、ビザ申請が暗礁にのりあげたことがある。そのため、やはりゆうちょ銀行の利用は避けたい。

3.預託金の使用

クラシックプログラム;クラシックプログラムの場合、ビザ申請後、一ヶ月経過後、預託金をコンドミニアムの購入や住宅の長期 リースなどに転用できる。ただし、物件の価格は5万ドル以上、自分自身の居住用のもの、かつすでに居住可能であるなどの条件が付く。したがって、従来可能だった下記の物件に適用することはできない。

(1)建設中のコンドミニアムを分割ないし一括で購入し、建設完了後引き渡される物件(プレセリングと称し、プレビルドと呼ばれることもあるが、それは間違い)。ただし、頭金、分割金を自前で支払い、最終払いに預託金を充当し、直ちに物件が引き渡されるような状況においてはOKだ(ただし、180日以内にタイトルを退職者に移動するという販売者の覚書が必要)。

(2)土地のみを長期リースして、住居の建設に預託金を充当する

(1)と(2)、いずれの場合も、自己資金でコンドミニアムの購入を完了、ないし住宅の建設を完了して、それに基づいて預託金を受け取ることは可能だ。その場合、完了という意味は、申請者本人(コンドミニアムの場合)あるいは土地の保有者(土地付き住宅の場合)の名義でタイトル(権利書)が存在しているということだ。これが、案外難しい話で、慎重に確認する必要がある。ちなみに、コンドミニアムの場合、タイトルの発効は、物件の完成から1年程度かかるので、その間は預託金の払い戻しは受けることができない。

ただし、同じプレセリングでもPRAが認定した物件は可能だ。これはデベロッパーがもし完成引渡しが不可能になったら、PRA預託金の返済を保障するというボンドを積むためだ。
PRAがタイトルうを必要とする訳は、法的に申請者による所有権が保障されていることの確認、ならびに、タイトルに「PRAの許可無しに転売してはならない」という裏書をして、担保として抑えるためだ。裏書をすると、ビザを取り消すか、あるいは代替の物件を担保に入れない限り、その物件を売却することはできなくなる。

いずれにせよ、購入を決定する前にPRAに預託金を使用することができるかどうか、PRAにヒアリングすることが肝心だ。

スマイル/ヒューマンタッチプログラム;これらのプログラムでは、預託金は、コンドミニアムや住宅の長期リースへの転用は認められておらず銀行に塩漬けとなる。ただし“End Term Needs and Obligations”すなわち、死に直面したときの入院費、埋葬費、その他の必要な経費に使用できる。

具体的には、配偶者など家族の一員が、入院費や埋葬費の見積書と診断書ないし死亡証明書、および家族であることを証明できる書類をPRAに提出すれば、すみやかに預託金を引き出すことができる。DBP に預託金が預けてある場合は、病院や葬儀屋などに直接小切手が発行される。上記の費用に使った後、残金は通常の相続手続きで引き出す必要がある。

もし、家族と呼べる人がいない、あるいは、生前、身の回りを面倒見てもらっている人がいたら、その人に委任状を書いて、入院費や埋葬費の支払いを委託しておくことだ。これを事前にPRAに提出して、認知しておいてもらう。そうすれば、PRAとして支払先を検証する必要がなく、ことがスムーズに運ぶ。

4.預託金の返却

預託金は、ビザを取り消せば、全額が戻ってくる。所定の書類と振込銀行を指定すれば、申請から1~1.5ヵ月程度で手続きは完了する。DBP に預託金が預け入れられている場合、PRAが指定口座に直接振り込んでくれるが、他の認定銀行にある場合は、Withdrawal Clearance(引き出し許可証)をPRAから受け取って、本人が預託金が預けてある銀行に赴いて送金手続きしなければならない。ちなみに指定銀行は、日本ないし国外の本人名義の口座でなければならない。

しかし、最近ネックとなっているのがインタビューだ。申請に先立ってPRAのインタビューを受けなければならない。インタビューの内容はどうってことはないのだが、日本にいる場合は、そのためだけに、フィリピンに来なければならない。さらに、取消し手続きにはパスポート元本を預ける必要があるので、帰国してからパスポートをPRAに送り、手続き完了後、パスポートを送り返してもらって、銀行手続きに再度訪問するなど、合計、3ヶ月近い時間が必要となる。ただし、旧パスポートにビザのシールがある場合は、旧パスポートのみでOKなので、パスポートの送付の手間がないので時間が節約できる。

なお、入院など、面接のためにフィリピンを訪問できない事情がある場合は、医師の診断書などを提出して面接が免除され、手続きを代行させることができる。この場合、委任状などの取消し書類は、日本で公証し、フィリピン大使館で認証する必要があり、書類準備がかなり面倒だ。

5.預託金の相続

申請者が亡くなったら、家族の方がビザキャンセルの手続きをして、預託金を引き出すことになる。ただし、この引き出しは相続手続きとなり、気の遠くなるような手間隙と時間がかかる。特に遺産分割協議書(Extrajudicial Settlement)の作成は、遺族構成が複雑な場合、厄介だ。詳細は次のブログを参照。「退職者が死んでしまったら(その2)2010年11月20日

従来、ORアカウントの取り扱いは、名義人の一方が亡くなった場合、単独名義の相続と同じ手続きが必要とされていた。しかしながら、最近取り扱っている相続の件で、BDO(Banco de Oro)から入手した書類ではORアカウントの場合、遺産分割協議書が不要と明記されていた。さらにBOC(Bank of Commerce)の約款にもORアカウントについては他の相続人の同意無しに全額を一方の名義人のものになる、と明記されていた。ただし、税務署(BIR)発効のCAR(証明書)が必要とあるので、預託金の半分は相続税の対象となる恐れがある。

これらの相続の実行はこれからなので、詳細は不明だが、基本的に、ORアカウントでは面倒な相続手続き無しにPRAからWithdrawal Clearanceさえ入手し、相続税さえ支払えば、引き出すことができる可能性が高い。

さらに気になるのがDBPへ預けた預金の取り扱いだが、DBPの場合の口座名義人はPRAであり、PRAの意向次第だ。したがって、このORアカウントの相続における有効性は、偏にPRAにかかっている。

PRAの財務部門のトップ、フィリップ部長に市中銀行におけるORアカウントの最近の取り扱いおよび、DBPの預金をあとからORアカウントにできないという不公平について話し合いを持った。フィリップ部長は、当方の主張の主旨を汲んでくれて、ORアカウントならびに相続における取り扱いについて、有効な手だてを講じると約束してくれた。

これら、ORアカウントの有効性が確認できたら、SRRVを保有する退職者には、大いにORアカウントを勧めたい。ただし、現状、夫婦でSRRVを保有しているか、フィリピン人配偶者を有している場合に限定される。

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